お正月明けのよく晴れた午後
その日黄色のハスラーはとっても張り切っていました
だって久々にオーナー夫婦を乗せて走っているのだから
ハスラーのオーナー夫婦はお正月明け、見事に流行り病にかかり5日程寝込んでいました
葛根湯とポカリスエットをがぶ飲みして流行り病から復活した夫婦は久々に外食することにしました
夫婦のたわいもない会話を聞きながらハスラーは走ります
どうやら目的地は近所のお蕎麦屋さんらしいです
本当はもっともっと遠くに走りたい黄色いハスラーですが(だってターボだってついてるんだから)
ここはグッと我慢します
病み上がりにはこれぐらいのドライブが丁度いいことは黄色いハスラーもわかっているのです
少し走り目的地の蕎麦屋に到着
店先に3台分駐車スペースがあるお蕎麦屋さんです
お昼時なのに先客なし
黄色いハスラーを駐車場に停めたオーナー夫婦は、お店のチョイス大丈夫だったかな?と少し不安になりながらお店に入って行きました
店内に入ってお店の様子を見た、ハスラー夫婦の旦那は安心します
店内の掃除は行き届いており、天井は梁を見せたおしゃれなつくりでとってもいい感じだったからです
オーナー夫婦が入った後に、すぐにご近所さんらしいご夫婦のお客さんも入ってきました
近所の人が通ってくるお店なんで大丈夫だろうとオーナー夫婦の妻も安心します
2人でこれもいいね。あれもいいね。と言いながらメニューを選びます
結局2人とも天そばセット(1500円)をチョイスしました
注文をして、天そばセットを待っている時に、お店の電話がなりました
大きなお店ではないので、電話の声がまる聞こえです
「今から12人ですか?大丈夫ですが」
団体客の予約の電話みたいです
「12人?草野球帰りかなんかか?忙しくなるぞ!!」
厨房から少しおどけた会話も聞こえてきます
そんな会話を聞いて「混む前のタイミングよく入れて良かったね」
なんてハスラーのオーナー夫妻は言い合ってます
そしてこのお店が人気店であったことを静かに喜びあっているのでした
少しするとハスラー夫妻の元に天そばセット(1500円)が運ばれてきました
待ちに待ったご馳走です
だって例の流行り病のせいで喉も痛く、固形物が食べれず、ゼリーばかり食べていたのですから
「いただきます」と食べ始めようとした時、ハスラーオーナーの旦那は異変に気付きます
駐車場にレクサス、ヴェルファイア、ヴェルファイア、真っ黒な3台が入ってきたではありませんか
ヴェルファイアの後部座席から色黒で短髪、黒づくめのピッタリとした服装でイヤモニをつけた若手が降りてきました
そして、なぜか周りを警戒してからお店に入ってきました
どう贔屓目に見ても反社の人です
若手の手にはガラケーが握られています
今は色々取り締まりが厳しく、反社の人たちは中々携帯の契約ができないので今もガラケーを使っているという話をハスラー夫妻の旦那は聞いたことがあります
反社確定です
外国の人が芸者を「GEISHA」というように「HANSYA」と静かに口にするハスラー夫妻の旦那
先程の電話は反社の若手からの予約の電話だったのです
ハスラー夫妻の妻はまだこの異変に気づいてません
どれから食べようかと迷い箸をしているぐらいです
すぐにお店の中は反社の人たちでいっぱいになりました
ハスラー夫妻のすぐ隣の大きなテーブル席に6人ぐらいの若手
少し離れた上り座敷の所に若手じゃない反社の人たち
「あっちのテーブルに盛6人前、大盛りで」
上り座席から注文の声が聞こえます
もちろん若手に選択肢なんかありません
流石にこれぐらいになるとハスラー夫妻の妻もお店の異変に気付きます
さっきおどけていた厨房から従業員の話し声が聞こえてくることもありません
あぁ、あんなに楽しみにしていた久々の外食なのに
ハスラー夫妻の旦那は全くお蕎麦、天ぷらの味を感じることができません
これは流行り病の後遺症なんかではきっとないはずです
そんな中、ハスラー夫妻の妻は美味しい、美味しいと何事もなくお蕎麦を食べてます
挙句の果てにはスマホで天ぷらの写真まで取り出す始末
店内にスマホの写真撮影の音が響きます
ハスラー夫妻の旦那は生きた心地がしません
お店から一刻も早く出たいハスラー夫妻の旦那と「蕎麦湯もらおうかな」とマイペースな妻
店内をよく見ると、ハスラー夫妻の後にお店に入ってきたご夫婦の旦那さんもハスラー夫妻の旦那と同じような顔をしてそばを啜ってます
向かいの奥様は特に気にした様子もなく、何やら時おり楽しそうに旦那さんに喋りかけています
こういった時には、女性の方が肝が座っているようです
食事を終え、無事にお店を出たハスラー夫妻
しかし駐車場で再びの絶望がハスラー夫妻の旦那を襲います
黄色いハスラーの両隣にはヴェルファイア、ピッタリ真正面にはレクサスが横付け停められてます
どうやっても出ることはできません
あぁかわいそうな黄色いハスラー
あんなに可愛くておしゃれな色なのに、あんな真っ黒な他人を威嚇する為に乗っている色の車に囲まれて…
そしてなんとかわいそうな黄色いハスラーのオーナー夫妻でしょう
お正月に流行り病で苦しんで、久々に外食でもしようとお出かけしたらこの始末
そんな自分達の境遇を思い浮かべ、ハスラー夫妻の旦那にフツフツと怒りが湧いてきています
ハスラーの旦那は出てきたお店に踵を返し、怒りのまま蕎麦屋の戸を静かに開きます
そして、蚊の鳴くような声で
「…すいませーん。ちょっと車寄せてもらえませんか?」
と丁寧にお願いしたのであります
すぐにハスラーの前のレクサスを動かしてもらい、家路へと急ぐハスラー夫妻
やっぱりお家が1番安全な所だと思ったハスラー夫妻の旦那なのでした
コメント