私と古い家3(真夏の夜の物語)

よー子

夫と結婚する前、都内で一人暮らししていたアパートも築25年くらいでそこそこ古かった。

ザ・木造アパートで、蹴破れそうな玄関ドアや電熱線のコンロがなんとも味わい深い。

そんな特に不自由はないアパートだったが、鍵の建て付けが悪いという難点があった。

鍵をかけてないのに、閉め方によっては扉が開かなくなることがあったのだ。

何度かそんなことがあり、やれやれと思っていたが、

ある夏の夜うっかりして、鍵を持たぬままノーブラ半袖短パンさらにノーコンタクト、ノー携帯、ノー財布の状態で外に閉め出されてしまった。

ノーミュージックノーライフどころの騒ぎではない。

ドアノブをいくら捻っても、勢いをつけて開けようとしてもびくともしない。

これはまずい。人生で割と上位に入るピンチだ。

うろ覚えだが時刻は22時を回っているくらいだったと思う。

管理会社もやっていない。どこにも連絡できない。大ピンチすぎる。

どうしようか…

そうだ、とりあえず駅前の交番に行こう。

電話を借りて鍵のレスキューに電話しよう。

そう思い立ち、非常に無防備な状態で交番に向かった。

貧乳で猫背なので色々ごまかせていたが大変心許ない。

そして裸眼なので周りも全然見えない。

どのくらい視力が悪いかというと、2メートル先のビニール袋がシーズー犬に見えてしまうくらい悪い。

ようやく交番に到着し、事情を伝えて鍵のレスキューの番号を調べてもらった。

電話越しに「この時間の緊急対応だと2万円程かかりますね」と言われた。

『に、2万!?高すぎるだろ!!!』

こんなに緊急事態なのにドケチが発動して、お願いしますと言えなかった。

電話を切り、半泣き気味に「2万かかるって言ってます……」とお巡りさんに伝えた。

お察しくださいと。。。

絶対2万払いたくないので、合鍵をもっている彼氏(現夫)の家に行こう。

お巡りさんに、絶対返すので彼氏の家までの交通費として500円貸してくださいと頼み、借りた。

彼氏の家までは電車と徒歩で40分くらいだ。

不安な気持ちで電車に乗り、目を細めて(視力悪くてあまり見えないが)電車内のモニターを見つめ、「あと何駅…」と数えながら向かった。

電車内は明るくて、無防備さが際立ち不安であった。

ようやく彼氏のアパートにつき、ピンポンを鳴らす。

突然の来訪と無防備で半泣き状態の私を見て、彼氏も驚いていた。

送ってもらい、交番で500円を返し、合鍵で無事に家に入れた。

後日管理会社に連絡し、鍵の修理をしてもらった。

鍵の仕組みはよく分からないが、もともと取り付けをした業者がかなり適当に作業していたようで、「これでは不具合が起こりますよ、大変でしたね」と修理業者に言われた。

今思い出すとかなり面白いが、その時は本当に大ピンチで大変だった。

ちなみに何故そんな状態で部屋を出たのかというと、ゴキブリがいなくなるスプレーを玄関口に噴射していたからである。

ゴキブリじゃなくて自分が閉め出された夏の日の想い出である。

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